[倫理学][道徳]15. 環境倫理学――持続可能性をめぐって

 今回は、持続可能性をめぐる問題を扱います。

15.1 地球の有限性の顕在化
 大航海時代を経て、地球が球体であることが分かってきました。地球の土地は有限であり、拡大しないものだと理解されてきました。土地が有限ならば、それを取り巻く大気も有限で、無際限にあるものではありません。技術・進歩などによって「今日より明日は明るくなる」という進歩観は改めるべきでしょう。
 資源の特質として、枯渇性(化石燃料のようにやがて枯渇するもの)と更新性(森林のように繰り返し更新されるもの)が挙げられます。枯渇性資源を使って現在我々が生きていることが問題です。特に枯渇性資源を使用しているのは殆ど先進国の人間です。水は更新性資源ですが、最近は工業用水への利用により水が循環しなくなっているため、更新性があるかは疑問です。しかも、水は途上国が開発し、その利益が先進国に渡ります。
 地球温暖化のような問題は、地球が大気圏に覆われた状態であるが故に、二酸化炭素に代表される温室効果ガスが大気圏での許容可能な量を超えて留まることで発生します。しかし、温暖化の影響は南北問題で言及されるような途上国に作用し、海面上昇や土壌汚染などの問題を引き起こします。後に言及しますが、南北問題が問題の構造上、地球環境問題を引き起こし、先進国の開発や消費のツケを途上国に負わせている講図になっています。
15.2 自然環境を守るとは
15.2.1 土地倫理(land ethics)
 アメリカのエコロジストであったアルド・レオポルド(1887-1948)は、「土地倫理(land ethics)」を提唱しました(参考:アルド・レオポルド[1997]『野生のうたが聞こえる』、新島義昭訳、講談社学術文庫)。ただし、ここでの「倫理」は学問ではなく、生き方を指しています。即ち、個人の倫理は「個人はどうあるべきか」を問い、社会の倫理は「社会はどうあるべきか」を問うのだから、これらをさらに超えて、土地の倫理は「土や川、草、植物、樹木、動物、空気などを含んだ『土地(land)』はどうあるべきか」を問うことで、「自然が存在する土地全体を守ることが環境倫理である」と主張する立場です。これより、土地という生命共同体そのものを尊重し、エネルギー循環を形成する統一性・安定性・美観をもっている「全体としての土地」を破壊すべきではないという主張が導き出されます。そして全体的美観や統一性を守るためならば、土地の中にある一見すると価値のないものも、他の生物にとって全体のエネルギー循環にとって必要となる以上、価値を有するとされます。これより、土地倫理は経済的な価値観からの開放を主張します。

15.2.2 土地倫理の問題
 しかし、土地倫理は全体維持に努めるあまり、「倫理的ホーリズム」と批判されます。「ホーリズム」は「全体主義」とも解され、「全体は個の総和以上のものだ」とする考え方です。「ホーリズム」の対義語は「アトミズム」で、「個の総和が全体である」とする考え方です。
 土地倫理は、「全体を守るためならば個を犠牲にしても構わない」、「全体が残っている程度まで個を破壊しても構わない」とする主張を含む余地があり、「環境ファシズム」に陥る危険性があります。また、土地倫理では「『土地(land)』の美しさを誰が語るのか」という問いに答えられません。

15.3 世代間倫理の問題
 ハンス・ヨナスは『責任という原理――科学技術文明のための倫理学の試み――』(加藤尚武監訳、東信堂、2000年)で責任という観点から環境倫理を語ろうとします。ヨナスは「行為選択の際は、その結果が未来世代の人間の生活の行為と折り合いがつくようにしなければならないこと」や、「我々が生きていくために未来に莫大な負の遺産を残すことは不道徳だ」と主張します。しかし、「未来世代の生活形態が分からないのに、不確定要素によって現在の権利を奪う根拠がないこと」や、「未来世代のために現在何かを行為しても、実際の未来にどのように作用するかは認識できない」とする批判が起こります。これらの批判に対し、「未来の世代に現在の世代が持っているような選択可能性が存在するかが問題で、生活形態自体は分からない」(例:化石燃料を使えば、未来の世代で化石を使う可能性はなくなる)、「現存する問題が未来で悪化するのではないかという予測・示唆が成り立ちうる」として批判に応答します。

 また、世代間倫理の基礎づけのために、以下のような議論があります。

 /祐屬瞭鰻神:未来世代も人間なので、生活形態が異なっていても同じ人間として考えることができるとする考え方です。しかし、同じ人間でも虐殺などが行われたことは歴史で証明済みです。
 ⊃祐屬亮己愛:将来に向かって我慢して、将来のために頑張ることでより大きな自己愛が得られるとする考え方です。しかし、現在の快楽で満足する人間は、自分と無関係な未来世代のために我慢するでしょうか。
 正義論の応用(参考:シュレーダー・フレチェット編[1993]『環境の倫理――上巻・下巻――』、京都生命倫理研究会訳、晃洋書房):自分に無知のウェールが被さり、どのような世代状況にいるか分からないようになった場合、自分がもし最悪の世代状況の中に生きていたら嫌だと思うだろうから、自分が最悪の状況に置かれた場合でも大丈夫なように未来のために行為するとする考え方です。しかし、現在世代が既にどのような状況かは分かっているので、無知のウェールは機能しません。
 じ什濱ぢ紊領祿芦宗А崋分くらいならいいだろう」と例外として認めるのを批判する考え方です。しかし、我々は既に自分を例外化した時代に生きています。


15.4 誰の生活の持続可能性か
15.4.1 救命ボートの倫理(ギャレット・ハーディン)
 ハーディンの「救命ボートの倫理」を次のようなものです。

富める国に生きる我々は、溺れかかった人々であふれた海の中を漂流する定員オーバーの救命ボートの持主のようなものである。もし溺れかかった人たちを乗船させて助けようとすれば、ボートは重量オーバーとなって、全員が溺れてしまう。全員が溺死するよりは何人かでも生き延びた方がよいのだから、我々は他の人たちを溺れるにまかせておくべきである。ハーディンに言わせれば、今日の世界には「救命艇の倫理(ライフボート・エシックス)」が当てはまる。富む者は貧しい者を飢えるにまかせておくべきである。さもないと貧しい者は富む者を自分たちのところまで引きずり降ろしてしまうからである。
(ピーター・シンガー[1999]『実践の倫理[新版]』、山内友三郎/塚崎智監訳、昭和堂、284頁)


 つまり、救命ボートの倫理は倫理の名において貧しい人たちを助けないことを認める立場です。しかし、現在の状態ではまだ余裕のあるレベルでの議論が可能で、この倫理はあえて危機を与えることで間違った選択へと誘導する危険性があります。また、富める者と貧しい者の環境は密接につながっており、それぞれ単独で存在しているのではありません。

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