[政治学、政治思想…政治哲学入門][倫理学]6. 公共性と市民(1)公共性(Publicness)の概念と共同体(community)

6. 公共性と市民(1)公共性(Publicness)の概念と共同体(community)
(1)公共性とは何か
 斎藤純一『公共性』(岩波書店、2000年)によれば、公共性の意味は主に三つある。

official:国家や公の法律の関係する「公共の」という意味。[例]「公共事業」「公立学校」⇔「民間の」「私企業」
common:「共有の」。万人共通のもの。[例]「公共心」「公共の福祉」⇔「私利私欲」「利己心」
open:「公開の」。すべての人に開かれている。[例]「公然」「公園」「情報公開」⇔「秘密」「プライバシー」

 政治哲学や政治理論としての「公共性」の意味合いは、基本的に次のように大別される。

A:特定の共同体としての共同性。つまり、アイデンティティーと結びついた善や価値、目的の実質的共有に基づく共同体(community)。国民の文化や歴史にかかわるものが公共性で、この共通の伝統を持つ国民こそが共同体を形成する、国民共同体を形成する立場。ナショナリズム的公共性概念よりも広い概念。上記の 椨△里茲Δ覆發痢(cf. コミュニタリアニズム)。
B:実質的価値や目的を共有するよりは、複数の価値観や目的がある中で互いに理性による合意の模索であり、外的な義務を共有し、討論の場を作る、重なり合う合意部分こそが公共性とする立場。上記の◆椨のようなもの(リベラリズムの公共性概念に近い)。
C:合意それ自体が目的ではなく、他者の前に現れるもの、他者の関心の前に現れるものである。現代の共和主義(republican;リパブリカン)概念やハンナ=アーレントの概念に近い。つまり、公共性は誰でもアクセス可能で、共通事項による関心(inter-esse)による結合で、異なる価値観でも成立しうるものとされる。また、共同体はメンバーシップの共有である種の排他的共同体であり、アイデンティティーにより成立・結合しうるものとされる。したがって、互いが理性による合意によって秩序ある平和社会が構想されるわけではなく、他者を前にパフォーマンスで表し、それが関心を生み、個性が表れ、政治権力を作り、皆の前に現れることによって、公共性が形成される。

(2)ロールズの公共性…政治的リベラリズム(political liberalism)
 ロールズの『正義論(Theory of Justice)』(1971年)では、リバタリアンやコミュニタリアンから次のような批判を受けた。まず、原初状態からマクシミン=ルールに至る、方法論が提示されているが、これらは自己完結して外に開かれておらず、公共性はない。また、格差原理は平等有効原理となりえない。
 そこで、ロールズは1993年に『政治的リベラリズム(Political Liberalism)』で上の批判に反論した。その反論は、『正義論』の内容は自己完結的な合理主義ではなく、むしろ多元的世界観の中で理性による合意を求めるものであるから、公共性を有するというものである。あくまで「政治的リベラリズム」での議論なので、包括的なものではないとする。他の世界観を前提とした複数の包括的世界観として体系的に説明づけるのではなく、単に政治的に正当化できるか、理性にかなうかどうかで善の多元性を前提にしながら、多元性の世界観の中での合意部分から公共性が発見されればよいとロールズは考えた。つまり、政治的リベラリズムは哲学的な世界観ではなく、あくまで理性による説得や合意からなる政治的正当化論の話であり、公的理性の政治的線引きをめざすものである。カントの体系的な理性批判の作業をロールズは政治哲学において、ごく限られた形で作業したものである。
 ロールズが避けようとするものは、政治的独断論と政治的懐疑論である。前者は、包括的な世界観から社会の基礎づけを行おうとするもので、多元性の存在が現在の事実であるとして前提するものである。後者は、正義や公正を構成し秩序ある社会を構想することは不可能とし、多元的世界観は力(power)で決まるパワーポリティクスであり、完全に理性を手段としながら力関係による暫定的秩序を作ろうとすることである。
 ロールズは存在哲学に距離を置きつつも、理性の能力について絶望をしていない。むしろ、他者を手段とみなし、自己自身にとっての善を無駄なく遂行する計算能力としての合理的理性(rational ration)の他に、異なる目的を持つ他者との共存・共生を模索しようとする力としての理性的理性(reasonable reason)もあるわけで、多元主義はもはや否定できないとしている。哲学的世界観、宗教的世界観、道徳的世界観…などのように、多元的世界観では重なり合う価値観や概念が出てくることが考えられる。多元性の理性手段の合意部分が理性の理性的な使用によって形成されることにより、「重なり合う合意(overlapping consensus)」ができてくる。そして、討論を通じて到達するものが理想の社会のうちの一つであるとされるのである。ロールズの議論は、自己の正義論は重なり合う合意の形成の上に成立した社会を扱うので、多元主義批判でもなく、政治的正当性を求めるものである。

(3)リベラリズムの公共性
 井上達夫『共生の作法――会話としての正義』(創文社、1986年)では、公共哲学としてのリベラリズムを擁護している。リベラリズムは単なる私利私欲の総和ではなく、公共性を模索しているものであり、現実社会は多元的な社会の前提は、善から独立した社会公正的正義の試み、正義を規定に存するものだとする(「正義」の基底性)。
 ここから、次の三つが基底性に存すると考えられる。

\亀舛慮共性:正義は政治・社会の構成原理であり、他の社会原理よりも一段上に立ち、他の社会原理にルールを与えるものである。
∪亀舛瞭販性:正義は実質的目的に依存することなく、正当化することが可能である。
正義の制約性:正義は実質的目的と正義の目的との衝突のときに、普遍的自由に基づく正義の目的が優先される。

 正義は必ずしも善を相対化するものではなく、むしろ現実を構造化するための理念性であり、形式的な機能原理である。
 以上の三つに基づいてリベラリズムの公共性の特徴を挙げると、次のようにまとめられる。

A:共生(conviviality):異質なものに対しても開かれた、自立した人格が相互に結合している形成体。あくまで共棲(symbiosis)の重視ではない。
B:寛容:他の世界観を受け入れる(価値の相対主義からくるものではなく、人間の認識は間違えるものという不完全さを前提にする人間主義的寛容論の反省からの議論)。実質的な目的や価値・伝統経験による結びつきではなく、あくまで理性によるルールの外的承認による社会。
C:会話的社交体(societas;一般の目的による形式的結合。一定のルールに基づいたうえでのそれ自体の愉しみに基づく):統一体(universitas;特定の目的による結合・実体)ではない。理性による合意が達成した後の共同合意体。

 以上のものが、デモクラシーが衆愚化・暴走して自由の抑圧や絶対主義へ進むのを防ぐのである。井上は、理性による枠組みの共有こそが公共性の概念であり、これが公的に正当化されることを要求するとしている。

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